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Face To Face NO.27 「父とおかんと医療政策」

53回生 前田哲兵
塩屋中学 卒
山岳部
 

中央大学法学部
甲南大学ロースクール
 

きのした法律事務所
弁護士




―父の死ー


 前田さんは、男ばかり5人兄弟の4男坊だ。前田さんが小学5年生の時に、父が癌で亡くなった。会社の健診で要精密検査と言われ、5人も息子がいる大黒柱としてすぐに大きな病院に行った。ただのポリープと診断された。だが、症状は日を追って悪くなる。180センチ80キロ以上あった大きな体は食べられないため痩せ、やがて嘔吐を繰り返すようになる。ある晩、就寝していた前田さんが起きてくると、洗面台で吐血していた父は「こっちにくるな」と言った。「見せたくなかったんでしょうね」。救急で運ばれた父は、末期の癌と診断され、それから半年後に亡くなった。
 

 「子ども心に、姿の変わってしまった父を見るのが怖かった。父は自分の死期を悟っていたんでしょうね。5人の子どもたちは、みんな父に呼ばれて会いに行きました。ひとりひとりばらばらにですけどね。最後に父と会った時、僕は、病室の父のベッドの上で、父とテレビアニメの『スラムダンク』を観ていました。僕が帰る時、父は握手を求めてきました。テニスに夢中で病院になかなか行けなかった3男が、最後に病院へ行きました。3男と会った父は、兄が病室を出た直後に意識がなくなり、その兄が帰宅する前に亡くなりました」
 

 土木建築に関わっていた父が作業着で帰宅すると、前田さんは「山登り」と称して、父の両手を握り、立ったままの父のお腹を登ってくるりと半回転した。近所の公園に二人でドライブした時、前田さんがサッカーに興じる姿を、父は楽しそうにカメラにおさめてくれた。
 

 「5人も子どもがいたので、経済的には苦しかったのでしょう。家族旅行も、外食さえも、一度も経験がありませんでした。だからこそ、そんな小さな幸せを覚えているのだと思います」
 

―「おかん」と「父の日記」ー

 父亡き後、母は簡易保険の集金をしながら5人の息子を育ててくれた。憔悴して笑顔がなくなってしまった母。そんなある日、前田さんはテレビニュースでスーツに身を固めた男性が数人、りっぱな建物に入って行く映像を目にした。前田さんが、母に「あの人たちは何?」と尋ねると、母は「弁護士だよ」と答えた。
 

 「その時、おかんに『僕が弁護士になったら嬉しい?』と尋ねたら、『そりゃあ嬉しいよ』とニッコリ笑ったんです。その笑顔が忘れられなくて。おかんを喜ばせてあげたいと幼心に考えたのが、弁護士をめざした最初の小さなきっかけでした」
 

 そして、長田時代にそれは明確な目標となる。母が見せてくれた父の日記を読んだからだ。
 淡々と綴られていた日記。だがそこには、体調がどんどん悪くなる事実を父が訴えても、ただ机の上を見ながら「気のせいですよ」と言って取り合おうとしない主治医の姿と、家族を残して逝ってしまう父の無念が綴られていた。
 

 「嘔吐を繰り返しているのに『気のせい』の一言で片づけられ続けた父。悪性の可能性を疑い検査を尽くしてくれていれば、父は死ななかったかもしれない。少なくとも、あれほどの無念を抱えながら逝くことはなかった。父の無念を晴らしたい。そう思いました」
 

 弁護士をめざして中央大学に進学。NPO団体の活動などを見て行く中で、医療の法政策の重要性を学び、父のような事故をなくすためには、医療事故調査制度を創設する必要があると考えるようになった。
 

―政策としての医療―

 今春、「医療事故調査制度」を創設する法案が国会でようやく成立した。
 

「今までは、医療事故が起こっても、患者と医療者の間で調査・補償が行われてそれで終わりでした。事故の情報が共有されていなかったのです。この法案の成立により、第三者機関に情報を集め、事故を分析し、再発防止のための提言ができるようになります」

 「アメリカの研究結果を日本に当てはめれば、日本では年間におよそ2万人から3万人の人が医療事故で亡くなっているとも言われています。人間である限りミスをゼロにすることは不可能です。だからこそ、ミスを防ぐために情報を共有・蓄積・分析することが大切なのです」
 

「裁判というのは、起こってしまった事故について責任がどこにあったのか明らかにするものです。しかし、だれも事故が起こることなど望んでいません。事故が起きて悲しむのは患者・家族だけではありません。医療者も悩み苦しみます。事故を未然に防ぐことこそが何よりも重要なのです。」
 

現在、前田さんは刑事事件や一般民事を扱いながら、専門分野として医療事故を扱っている。そして東京大学の公共政策大学院の自主的社会活動「H−PAC」に参加し、そこで医療基本法制定チームのチームリーダーを務める。
 

「『医療基本法』は、医療分野の大きな方向性を示す法律です。まずは医療が「患者本位」であること。そして超高齢社会が進展していく中で、限られた財源や人材を必要な人に公平に届ける「公共性」が大切です。患者本位の医療を50年・100年先の未来も続けることができるように、医療全体を大局的視点から捉えなおす必要があるのです」
 

「これからは、患者と医療者が互いに手を取り合って一緒に医療政策を話し合っていく場所を作らなくてはいけない。医療基本法は、そのような議論の土台となるものです。」
 

―カルピスー

そんな前田さんの現在のマイブームは「カルピスの牛乳わり」。少年時代に飲んだカルピスは、貴重品だからとっても薄かった。それでも大好きだったカルピスを、牛乳でわったらどうだろうとふと思いついたのがきっかけ。「めっちゃ、おいしいんです!ほぼフルーチエ(笑)。毎晩欠かせません」
 

 どんなに努力しても裁判で勝てる「保証」はない。でも、だからこそいつもベストを尽くす。
 「努力は人を裏切らない」と、窮地に立った時はこの言葉を思い出す。精一杯努力したら、もう結果のことは考えない。結果は「神様からのギフト」。そう思っている前田さんだ。
(2014年8月 取材・文・写真 田中直美)

  父の亡くなった翌年、阪神淡路大震災が起こった。その時に書いた作文。「ぼくは生きることについては,どんなに最悪でどんなに最低条件の生き方でもまず生きなければならないと思います。わけは,たとえ最悪の状態でも,その人が亡くなれば,この地球上でだれかが悲しむからです。ぼくは,死ぬということは自分だけの問題ではないと思います。」と書かれている。





 被災地無料法律相談後の前田さん。
(なお,写真に写っている方は,相談者ではありません。)

 写真左)大槌の漁師さんと復興を誓う
 写真右)法律相談後、釜石のお店にて
 お店のお母さんに肩もみ


 H-PAC医療基本法シンポジウムの様子(発表者前田さん)


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| comments(1)|
弁護士 高橋克己 (2014/08/03 7:40 AM)
私の処にも、「神様からのギフト」、沢山届きますよ。









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