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Face To Face No.78「宇宙全託」

 高31回生 寺門孝之

 垂水東中学卒

 映画研究部

 大阪大学文学部美学科卒

 神戸芸術工科大学教授

 

 

 

大阪大学工学部に入学しながらも、現在は神戸芸術工科大学教授を務め、画家として数々の作品を発表し続ける寺門さん。そのモットーとする言葉は「宇宙全託」。この聞きなれない言葉は寺門さんがかつて仕事上、お付き合いのあった某会社の社長の座右の銘であったとのこと。その言葉が自らの人生の指針となるに至った、不思議なお話を伺いました。

 

―学生時代ー

 イラストレーターの宇野亜喜良の絵が大好きで、一生懸命トレースしていた小学生の寺門さん。いつかは自分の絵で世に出てみたいと思っていた。長田時代は映画の自主制作に没頭した。大森一樹監督や石井岳龍監督が活動し始めていた頃で、寺門さんは8ミリフィルムでの撮影、脚本執筆、編集、チラシ制作など表現活動に没頭した。

 

 大学入試直前になって美術系大学を受験したいと打ち明けたが、担任教員にも両親にも「そんな話は聞いていない、今からでは絶対に無理」と反対され、ならば一年浪人して美大を受けようと心密かに決めていたところ、現役で大阪大学の工学部に合格してしまった。入学はしたがやはりしっくりこず、3年進級時に文学部美学科に転部転科。だが、そこでも美術史を研究するだけで「描く」わけではない。東京に出て絵の実制作を学びたい! そのためにも、一人息子である自分は、まずは大学をきちんと卒業して両親を安心させねば。

 

 「ちょっとした『めくらまし』ですよね(笑)」。卒業が遅れそうだった寺門さんは、信頼を得るため猛勉強してなんとか4年で大学を卒業。両親の許しも得て上京した。

 

―セツ・モードセミナーー

 上京した寺門さんは、数々の美術学校を見学する。生活費は自分で稼がなくてはいけないので夜に授業を受けることにしていた。

 ある夕暮れのことだ。不思議な、とてもセンスのよいファッションに身を包み、絵の道具を抱えた人々がおしゃれな建物に吸い込まれるように入っていくのを見た。そこは日本のファッションイラストレーションの草分けであり、水彩画家としても独特の繊細でファッショナブルな画風で知られる長沢節が主宰するセツ・モードセミナーだった。

 

 引き寄せられるように建物に入った寺門さん。受付には、今までに見たこともないような美青年が座っていた。「資料が欲しいのですが」と言うと「ちょっと待って下さい」と言われた。

 

 「そして彼は、いきなり半ダースほどの鉛筆を取り出して、それをカッターで美しく削りだしたんです。そして削り終わった鉛筆をトントンと揃えて、『で?』と言ったんです。なんなんだ!この特別な雰囲気、美意識は?」こうして寺門さんはセツ・モードセミナーの夜間部に週三回通いながら、昼間はアルバイトする生活に入った。

 

―声ー

 長沢先生は細かいことは一切教えない。生徒たちが描いた絵を見て講評だけをする。初めての講評会で寺門さんの絵を観た先生は「君は写真か、映画をやっていたのか?うん、そんな感じだな。だが、絵の構図は写真とは違う。絵では水平線は傾けてはだめだぞ」と言われた。なんだかまだ分からないがこの先生はすごい!そう直感した。「この先生について行こう。」 だが、その後、寺門さんの絵はなかなか評価されることがなかった。寺門さんは落ち込んでいく。やがてアルバイトも辞めてしまい、昼間は寝て過ごすような自堕落な生活を送り始めた。

 

 アパートの万年床で昼間まで寝ていた寺門さんは、突然、耳元で声を聞いた。電話線を通したような少しカサカサした女声だったが、はっきりとこう言った。「新聞を買いに行け」。

 

 「その声に、反応しちゃったんですね。え??新聞?どこに売ってたっけ??」

 

―コンピューターグラフィックスー

 近くのコロッケ屋さんで新聞も売っていたことを思い出した寺門さんは、新聞を買いに走る。以前は求人広告を見るために新聞を購読していたが、それも止めて久しかった。自然と求人広告に目が行く。「イラストレーター募集。経験不問」の文字が目に入った。

 

 「上京当初、求人広告に掲載されているイラストレーター募集では、電話すると、必ず『経験は?』と聞かれ、『経験はない』と答えるとそれで門前払いでした。なので、すぐに電話しましたね。本当に経験不問なんですか?と尋ねると、絵はやっているんだよね?と聞かれ、その絵を持ってきてください、と言われたのです」

 

 銀座の小さなビルを訪ねた。「株式会社シフカ」は来るデジタルネットワークの時代にいち早く目をつけた若い経営者が設立したてのデジタル画像制作会社だった。

 

 画材はコンピューター。給料ももらえる。そして工学部出身の寺門さんは、ドットで描いていくコンピューターグラフィックスの創成期に馴染むのも早かった。

 

 「大手企業も、来るデジタルコミュニケーションの時代にすでに備えようとしていました。螢轡侫は大日本印刷が一大クライアントで、僕は大日本印刷の研究所のようなところで、次々を開発されてくる日進月歩の技術の最先端で思う存分画像制作をやらせてもらいました」

 

 一年が過ぎた頃だ。ある朝、寺門さんは夢を見て目覚めた。

 

―不思議な夢ー

 「そこに洞窟があるのです。おずおずと入っていく僕。そうすると前方にたくさんの人がいて『ブラボー!』と拍手喝采で僕を迎えてくれる。その先には白い3つの額縁。目覚めた時、なんとも言えない高揚感と幸福感が私を包んでいました」

 

 その日、セツ・モードセミナーに行くと「日本グラフィック展に出品するよね?」と友人に声をかけられた。「日本グラフィック展」は5000人もの人が応募するグラフィックアートの一大登竜門で、歴代、大賞は日比野克彦・谷口広樹はじめ東京藝術大学出身者が独占していた。

 

「なんだか、僕は大賞とれるんじゃないか?そんな気がしました。夢に出て来た白い額縁を散歩コースの画材屋さんで見た気がする。さっそく買いに行くと、売り切れで今はないが注文したら一週間で出来ると店主が言う。すぐに注文して、一週間不眠不休で作品を仕上げました」

 

 大賞発表当日、寺門さんはあんなに自信があったのに、怖くて発表をなかなか見に行けない。時間ぎりぎりになってタクシーを奮発して発表会場のパルコに駆け付けた。そのパルコの駐車場入り口がまるで洞窟のようだ。その奥には大勢の人がつめかけており「遅かったじゃないか!待ってたよ!」と声がかけられた。膝がガクガク震えた。大賞受賞だった。

 

 「セツ・モードセミナーが藝大旋風にストップをかけた」と新聞に紹介された。

 

第6回日本グラフィック展大賞受賞作品「潮先」1985年 水彩紙にアクリル絵の具

 

 

 

―宇宙全託ー

 大賞を受賞した寺門さんはその1年後螢轡侫を退職し、以降、フリーランスで活動している。

 

30歳で結婚した寺門さんが、生活資金に窮して銀行に記帳に行ったら、なぜか数十万円のお金が振り込まれている。何年か前の仕事で未払いになっていた賃金が振り込まれていたのだった。

 

「これはきっと、まだ絵の仕事続けていいっていう、宇宙からのお知らせよ」と妻が言った。それ以来、「宇宙全託」という言葉が寺門さんの心の中に響いている。

 

―天使ー

 2014年から、寺門さんは新しい手法で描く天使の絵のシリーズを発表し続けている。リトアニアリネンという麻布をキャンバスにし、まず表から絵を描く。次に裏返して染みた絵具の上に描く。また表に返し、そして裏に返し、その作業を納得のいくまで続け、最後に気に入った側に一筆入れて仕上げる。どうやって描いたのは分からないような、そんな絵を描き続けたい。

 

 

「FONTANA」2018年 リトアニアリネンにアクリル絵の具その他

 

「高校生の前の中学生。その前の小学生。その頃に、理由も分からずに好きになったものや人と、その後の人生で必然のように出会いました。今この時、好きなことをずっと忘れないでいると、いいことがあるかもしれませんよ!」

 これが不思議な体験の中から自分の道を見つけ出した寺門さんから現役長田生へのアドバイスだ。(201810月 取材・写真・文 田中直美)

 

 

編集後記

 展覧会会場にてインタビューをさせていただきました。寺門さんの天使の絵に囲まれながら、穏やかな声で話す寺門さんのストーリーを聞いていると、不思議とその場面場面が映画のように私の頭の中で映像化されます。寺門さんを推薦してくれた同期のH君の話によると、寺門さんのオーラは長田時代から「半端なかった」とのこと。インタビューが終わるまで、辛抱強く寺門さんをお待ちになっていたファンの方もおられ、その人気の一端を見た思いでした。絵の方はちょっと手がでなかったので、テラカドオリジナル、素敵なピンバッチのセットを私も購入しました。プロフィール写真の襟元にご注目です!

 

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